2014/09/03 (Wed) 彼は始まったばかりの式典へと意識を向けることにした Category 生活

彼が一人であれこれと魔力的な事を掘り下げて考えている内に、式が始まったのだろう。音楽が流れ始める。気がつくと、いつの間にか夫婦は一緒になっており、彼自身も彼らの隣で着席している状態だ。彼の座高からすると後ろの席の人には邪魔だろうが、この際、後ろの人には我慢してもらうことにする。

神矢夫婦が座った傍らに座るしか、彼は選択ができなかったのだから。前の椅子との間が狭くて足の収まりが悪いのも、この国に居ればいつものことだ。それらを思い巡らせて、「まあいい」と彼は口の中で小さく呟く。彼の母語で。魔力のことについて、ここであれこれ考えていても、あまり実りはなさそうだ。後でナミと相談するしかないだろう。そこで彼は、始まったばかりの式典へと意識を向けることにした。

先程も感心したのだが、学校に大勢のローティーンの子どもたちが居ること、ただの単純極まりないその事実を目の当たりにすることが、彼には純粋に面白いことだと思った。同世代の人間がこうも大人数でひしめいている空間に居ることなど、この10年以上、体験することは無かった。その単純な事実が、興味を惹いた。一方で、自分に纏わる昔のことについては可能な限り思い出さないよう、記憶から切り離していた、といったこともある。